ピルの原理と種類
女性ホルモンには卵胞ホルモン(E)と黄体ホルモン(P)があります。卵胞ホルモンは排卵前の卵胞から分泌され、黄体ホルモンは排卵後に形成される黄体から分泌されます。
ピルは排卵後に卵巣から分泌される黄体ホルモンを月経周期の初期より使用することで、妊娠しているような状態にします。このため、排卵を抑える効果があり避妊効果が得られます。黄体ホルモンのみ含まれているピルは「ミニピル」とよばれます。
現在広く使用されている低用量ピルは黄体ホルモンと卵胞ホルモンの混合製剤となっています。これは、黄体ホルモンだけでは排卵を抑えるには大量投与が必要であり、また排卵を抑える効果そのものも不安定であるためで、作用を強める卵胞ホルモン/が加えられているのです。このため、「ミニピル」と比較して高い避妊効果が得られると考えられます。
しかし、最近問題となっている「血栓症」を含む低用量ピルの重大な副作用の多くは卵胞ホルモンに関係するため、使用にあたっては医師の十分な診察・説明を受ける必要があります。
ミニピル
黄体ホルモンのみ含まれるピルのことは「ミニピル」と呼ばれることは先ほど述べた通りですが、現在避妊を目的として販売されている黄体ホルモンは
日本にはありません。
このため、治療用の黄体ホルモンを「ミニピル」として代用します。
(避妊目的で使用する場合には、健康保険は適用されませんので自費負担になります。)
最大のメリットは、卵胞ホルモンによる副作用がない(血栓症, 特に肥満の方や35歳以上の方でも安全に使用できる)ことが挙げられます。
また、授乳中でも安全に使用できるとされ、産後授乳中の避妊をお考えの方には大きな助けになるといえそうです。
一方、デメリットですが、連日同じ時間に内服をする必要があること、のみ始めに不正出血が続くことがあること、が挙げられます。
低用量ピル
一般的に日本で使用されている経口避妊薬となります。ひとくちに低用量ピルといっても、含まれる卵胞ホルモン・黄体ホルモンの種類・量により副作用・副効用(避妊効果以外のメリット)に違いがあるため、服用に際しては医師と十分相談することをお勧めいたします。
含有する黄体ホルモンによる低用量ピルの分類
① 第1世代低用量ピル ノルエチンドロン(Norethindrone)
最初に開発された低用量ピルになります。黄体ホルモン作用が弱いため、含有される黄体ホルモンの量が多くなっています。
② 第2世代低用量ピル レボノルゲストレル(Levonorgestrel)
新しく開発された黄体ホルモンを使用することで、黄体ホルモンの量を第1世代から減らすことができた低用量ピルです。しかし、この分類のピルは男性化兆候(にきび・多毛など)の副作用が現れることがあります。
③ 第3世代低用量ピル デソゲストレル(Desogestrel)
男性化兆候の副作用を減らすために開発された低用量ピルです。しかし、他の黄体ホルモン製剤に比較して、重要な副作用である血栓症のリスクの増加を指摘する報告があります。
低用量ピルを使用した場合のリスク
① 血栓症
頻度は非常にまれですが、最も重要な副作用・合併症になります。低用量ピルに含まれる卵胞ホルモンには血液を固まりやすくする働き(凝固作用)があり、足の静脈内の血が固まってしまう(血栓)ことがあります。この血栓が血液の流れにのって肺内の静脈がつまってしまうと、生命に関わる重篤な状態を引き起こします。
低用量ピルの使用を始める前のリスク評価と定期検診が重要となります。また、使用中に急に足がはれて痛みがあるなどの症状がある場合には、急いで専門医を受診する必要があります。
② 乳癌
2010年にアメリカで行われた大規模な(116,608人)前向き観察研究において、ピル使用の女性において1.12~1.33倍の乳癌発生のリスクが報告されました(Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2010
Oct;19(10):2496-502)。一方、最近(2014年)タイから行われた11,414人の観察研究の報告では乳癌発生のリスク増加はなかったとされています(J Epidemiol. 2014 May 5;24(3):216-20.)。
この他にも、乳癌発生については様々な報告がありますが、結論はまだ研究中といった段階といえます。また、低用量ピル内服を中止してから10年以上経過している場合には、乳癌発生のリスクは一般の発生頻度と変わらないとされています。
(http://www.nhs.uk/Conditions/contraception-guide/Pages/combined-contraceptive-pill.aspx)
定期的な乳がん健診を受けることが重要です。
低用量ピルを使用中の起こりうる副作用
① 頭痛・吐き気・気分変動・乳房の痛み・不正性器出血
低用量ピル内服をはじめてしばらくの間起こることがあります。だんだんなくなっていくことが多いですが、2-3ヶ月しても症状が治まらない場合には、他の種類の低用量ピルへの変更を考慮する必要があります。
② 血圧上昇
定期的な検診により血圧測定を行ってもらいましょう。高血圧と診断される場合には、薬剤の変更・中止を行うことが必要です。
低用量ピル使用による避妊以外の効果
低用量ピル使用に関しては心配な副作用もありますが、避妊効果以外にも女性の生活を改善させる効果(副効能)があります。
① 生理にともなう症状の改善
生理が定期的になることが多く、出血量が減り、また生理痛の症状も改善されます。生理痛がひどい、また生理の時の出血が多い場合に使用される場合があります。
② 月経前緊張症候群(PMS)の症状の軽減
生理前7-10日のイライラ・精神的不安定などの体調不良は月経前緊張症候群とされ、女性のライフスタイルの大きな妨げになる場合があります。
低用量ピルの使用により、月経前緊張症候群の症状が軽減される場合があります。
③ 卵巣癌・子宮体癌・大腸癌のリスクの減少
乳癌発生のリスク増加とは反対に、卵巣癌・子宮体癌・大腸癌のリスクは減少するとされています。
服用開始にあたって
これまでに述べてきたように、ピルには十分な注意をすべき副作用がありますが、女性の生活の質を改善する大きな可能性があります。ひとりひとりの女性のニーズ・症状、また起こりうる副作用はさまざまですので、担当する医師の十分な診察・カウンセリングを受け内服することをお勧めいたします。
緊急避妊ピル(アフターピル)
行っていたコンドームなどの避妊の失敗や、避妊しないで性交渉を行った場合に行う避妊法です。望まない妊娠による人工妊娠中絶を避けるために、性交渉後早期に産婦人科を受診しご相談ください(緊急避妊は72時間以内に行われる必要があります)。
緊急避妊ピル使用の実際
避妊のない性交渉(もしくは避妊失敗した場合)の後、72時間以内に女性ホルモンである黄体ホルモン(レボノルゲストレル;Levonorgestrel)を内服します。
※ Yuzpe法といって卵胞ホルモンと黄体ホルモンを同時に使用する方法もあり、使用方法はほぼ同様です。しかし、避妊成功率が高いこと、また吐き気・嘔吐の副作用が低いことよりレボノルゲストレルによる方法が主流になりつつあります。
WHOもレボノルゲストレルによる方法を安全に使用できる方法として推奨しています。
(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs244/en/)
緊急避妊ピル使用後の注意
緊急避妊ピルの成功率は残念ながら100%ではなく、85%程度であると報告されています。このため予定の生理が1週間程度こない場合には、妊娠の可能性がありますので早期に産婦人科を受診しご相談頂くことをお勧めいたします。